投資のためのデータサイエンス

個人の投資活動に役立つデータ分析にまつわる話題を綴ります。

【焦点】日本型雇用は今後どうなる?(その1)

日本型雇用慣行は崩壊しつつあるということは10年以上前からずっと言われ続けている。しかしその根幹は根深く、「新卒一括採用」や「終身雇用」は公務員や大企業を中心に根強く残っている。

一方でグローバル化への対応や成長の停滞で、「非正規労働力」の割合がどんどん増加している(図の出典は総務省統計局)。

世界的に見て、日本型雇用慣行は非常に特殊なシステムなのだが、多くの日本人は海外の雇用システムを知らないので、日本型雇用慣行が当たり前で、海外でも同様のシステムになっていると思っている。

ここで念のためグローバル(標準的)な雇用システムを簡単におさらいする。各組織の各役職やポジションには"Job Description"があり、職務内容や報酬が記載されている。労働者は新卒であるか既卒であるか、組織内か組織外かに関係なく、自分がそのJob Descriptionの応募条件を満たし、その仕事をしたいという意欲があれば応募する。応募した候補者から面接等により採用者を決定する。応募には履歴書や職務経歴書の他に、元上司などによる推薦状(Cover Letter)が必要な場合が多い。ほとんど全ての職が期限付きで、給料はスキルに応じて決まる。それが客観的に考えて自然である。私は米国のビジネス会議で電気エンジニアと機械エンジニアのLabor Costが若干違うのを見て改めて日本との違いを実感した。

日本では高度成長期には企業労働者のほとんどが正社員であった。アルバイトは学生が生活費の補助のためにするものだった。伝統的日本型雇用システムではJob Descriptionはなく個々人の職務の定義はあいまいで、それが長時間労働や辞令一枚でどこでも転勤といったことにつながる。賃金は学歴(高卒か大卒か)と年功のみによって決まるので、どんな職種・スキルでも同じ会社の(大卒)同期は管理職になる前は原則同じ賃金である。私は研究所に就職した時に研究職と事務職で賃金が同じであることを知って不思議に思った。それは30年以上前のことだが、比較的最近にその事を英会話スクールの米国人講師に話したら「えっ、嘘でしょ。じゃあ何のためにスキルを高める努力をするの?」と全く理解してもらえなかった。これは私が新卒時に抱いた疑問と同じである。正社員の時はこの「日本的悪平等」も慣れてしまって違和感を感じなくなったが、早期退職後非正規で仕事をして、この悪平等が日本のデフォルトであることを嫌というほど実感した。見た目にも素人のパート主婦と自分の時給の違いは100円程度だった。もう勤めの仕事は二度とやらないと決意した。そして「雇用」が存在しないフリーランスの世界でもこの空気があることがわかってきた。こうなるとグローバルに仕事を探すしかない(英語スキル前提)。

周知の通り、日本型雇用システムでは若い時期は成果>報酬で、ベテランになると成果<報酬になる。この逆転時期より高齢になると転職市場はほとんど存在しない。そして累積の成果=報酬になる位で「定年」という形で強制退出させられる。制度的にはほとんどの企業組織は60歳定年であるが、その前に役職定年や関連会社への転籍など様々な形で退出させられる。

高度成長期はこれでやっていけたが、バブルが崩壊し日本が低成長時代に入ると、人件費抑制の圧力が強まり、いわゆる「非正規雇用」の労働力が次第に増えてきた。まず特定の職種で「派遣社員」の活用が始まり、その後「任期つき事務員」などのプロパーの非正規のポジションも増えていった。非正規雇用の場合は多くの場合賃金は最低時給に近いレベルに抑えられ、福利厚生も法定外のものは考慮する必要がない。かくして同じ職場でほとんど同等の職務をこなしているのに、非正規社員は正規社員の半分から数分の一の報酬しかもらえない、という目に見えた職場内格差が日常的に見られるようになった。

政府は最近失業率が低い水準で推移していることを喜んでいるが、これは非正規労働者が増えたからである。一般に非正規の給料では家族を養うことはできない。それゆえ多くの非正規労働者は生活にゆとりがなく、結婚も思うようにできない。大手広告代理店正社員の過労死自殺が話題になったが、それを報じているテレビ局のアナウンサーは正社員であり、それを見ている多数層であるシニア世代もほとんど元正社員(とその配偶者)である。自分は非正規を経験したのでその空気に違和感を感じるようになった。日本型雇用システムを変える以外に根本的な解決策はないというのが正論だが、正社員で固められたマスメディアには正論は出てこない。この空気が希薄になるにはまだ10年近くかかりそうである。

これから日本型雇用システムはどうなるのであろうか?官公庁や大企業では新卒で優秀な人材を確保するために、終身雇用を維持する前提で当面採用を続けるとみられる。そもそも行政を支えている中央官庁が日本型雇用から転換しない限り、この正規と非正規の混在した状態は続くであろう。

日本型雇用システムはある種の「均衡状態」(最も高いかどうかわからない山の頂)であり、標準的雇用システムというグローバル均衡状態へは山を昇り降りしなければ到達できない。そして前者の均衡状態はそれを形成している土台が崩落しつつある。その崩落からどのような経路を辿って標準的な均衡へ到達するのか、それをよく考える必要がある。